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臨床動作法

臨床動作法のやり方とは?効果,リラクゼーション法

臨床動作法とは、「肩を上げる」「腰をゆるめる」といった動作の課題に取り組みながら、からだの余計な緊張に気づき、自分で力を入れたり抜いたりする体験を重ねることで、こころのあり方や日常生活の変化を目指す心理療法です。日本の心理学者・成瀬悟策が、脳性マヒの人への動作訓練の研究から発展させました。

みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「臨床動作法」です。

臨床動作法

私がはじめて臨床動作法に出会ったのは、心理学の勉強を始めたばかりの、約20年前のことです。地元の津田塾大学で開かれたワークショップに、おそるおそる参加しました。参加者は20人ほどで、男性は私だけでした(汗)。

肩や背中の力が少しずつ抜けていくにつれて、体がぽかぽかと温かくなり、どこか懐かしいような安心感に包まれたことを、今でもよく覚えています。当コラムでは、その体験も交えながら、臨床動作法の考え方と、自分でできる課題を紹介します。目次は以下の通りです。

目次

①臨床動作法とは

臨床動作法は、言葉のやりとりを中心とする多くの心理療法と違い、「動作」を主な道具にする、日本で生まれた心理療法です。まずは、生まれた経緯と基本の考え方を確認しましょう。

生まれた経緯

臨床動作法は、九州大学の心理学者、成瀬悟策が中心となって開発しました。成瀬は、もともと催眠の研究と臨床を行っていました。

1960年代、脳性マヒの人の、ふだんは思うように動かない腕が、催眠の暗示によって動いたという報告をきっかけに、成瀬らは「体が動かないのは、筋肉だけでなく、動かそうとする心の働き方にも関わっているのではないか」と考えるようになります[1]。そこから、催眠を使わずに、本人が自分の体をうまく動かせるよう援助する「動作訓練」が生まれました。

その後、1970年代には自閉スペクトラム症などの発達障害のある子どもへ、1980年代以降は統合失調症、うつ病、心身症などの心の不調や、高齢者、スポーツ選手、災害後の心のケアなどへと、対象が広がっていきました。

生前の成瀬先生の様子は、こちらの動画で見ることができます。

「動作」の考え方

臨床動作法でいう「動作」は、単なる体の動きではありません。日本臨床動作学会[2]は、臨床動作法を、動作を主な道具とし、セッションでの動作の体験を通して、相談に来た人の日常生活がより望ましく変わることを目指す心理療法と位置づけています。

臨床動作法では、次のような一連の流れ全体を「動作」と考えます。

課題:援助者が示す動作の目標(例:右肩をゆっくり上げる)

意図:「肩を上げよう」という心の働き

努力:意図を実際の体の動きにつなげようとする心の働き

身体運動:努力の結果として生まれる体の動き

例えば、緊張しやすい人は、肩だけを上げるつもりでも、首や背中にまで力が入ってしまうことがあります。これは、努力の仕方に「くせ」があるためと考えます。課題に取り組みながら、このくせに気づき、ちょうどよい力の入れ方を体験していくことで、気持ちの持ち方や物事への取り組み方も変わっていく、というのが臨床動作法の考え方です。

他のリラックス法との違い

からだから心に働きかける方法には、漸進的筋弛緩法や自律訓練法などもあります。漸進的筋弛緩法が、決まった手順で一人でも練習できるのに対し、臨床動作法は、援助者がそばで体に触れたり声をかけたりしながら、その人に合った課題を一緒に進めていく点に特徴があります。

援助者と息を合わせて取り組む中で、「支えてもらえている」という安心感や、「自分で体をゆるめられた」という手応えが生まれることも、大切な要素とされています。

②臨床動作法の目的

臨床動作法の目的は、大きく分けて「自然な動作を身につけること」と「心の成長」の2つです。2つは別々のものではなく、互いにつながっています。

自然な力の入れ方を学ぶ

私たちは、気づかないうちに、必要以上に体に力を入れていることがあります。例えば、人前でスピーチをするとき、肩に力が入り、体がかたまってしまう人は多いでしょう。本来、話すために肩の力は必要ありません。

このような余計な緊張が習慣になると、肩こりや頭痛、寝つきの悪さなどにつながることがあります。臨床動作法では、肩をゆっくり上げ下げする、背中をゆるめるといった課題を通して、余計な力に気づき、生活に必要な分だけ自然に力を使えるようになることを目指します。この考え方は、心の不調への援助だけでなく、スポーツ選手のパフォーマンス向上にも活かされています。

自分を実感し心が整う

課題に取り組んでいると、次のような体と心の変化に気づくことがあります。

なんだか体が温かくなってきたなぁ

体にずいぶん力が入っていたんだなぁ

今まで気を張りすぎていたのかなぁ

このように、体の緊張をゆるめながら、同時に自分の心の状態にも気づいていきます。そして、自分の体を自分でコントロールできたという体験は、「やればできる」という自信や、「自分はここにいる」という実感につながると考えられています。

例えば、これまでがちがちに緊張していたスピーチを、緊張しながらも肩の力を抜いて話せたとしたら、それは小さな成功体験になります。体への手応えが、自分らしく行動する力を支えていくのです。

臨床動作法,安心

③効果と研究

臨床動作法の効果は、主に国内の事例研究や、少人数を対象とした研究で報告されてきました。ここでは代表的な研究を紹介します。

研究で報告されていること

これまでの研究では、リラックス感や体調の改善、自分の体を自分で動かしているという感覚の高まりなどが報告されています。また、統合失調症のある人の社会生活の力や、子育て中の親、高齢者、災害の被災者のストレス軽減など、さまざまな対象で活用されています。

研究の詳しい内容に興味がある方は、以下を展開してみてください。一般の方は読み飛ばしても大丈夫です。

長期入院の方への研究

上倉・清水[3]は、長期入院中、または長期入院のおそれがある統合失調症の方12名に、週1回40分の臨床動作法を計6回行いました。その結果、社会生活への適応を評価する尺度の得点が統計的に意味のある形で改善し、「衝動のコントロール」や「会話の技能」などに改善がみられたと報告しています。

大学院生を対象にした研究

上倉[4]は、心の不調を抱えていない大学院生を対象に、動作の体験の前後で「体調」「リラックス感」「自分で動かしている感覚」「自分の体だという感覚」がどう変わるかを調べました。その結果の一部が下の図です。

臨床動作法,体調への効果

臨床動作法,リラックス感への効果

図のように、体調とリラックス感は、動作の体験の後に高まっていました。このほかにも、「体が軽くなった気がした」「体の動きが変わったように感じた」などの変化が報告されています。

研究を読むときの注意

臨床動作法の研究は、対象の人数が少ないものや、比較するグループを置いていないものが多く、効果について確かなことを言うには、さらに質の高い研究が必要です。「必ず症状が良くなる」というものではなく、心の不調の治療を受けている方は、主治医と相談しながら取り入れるようにしましょう。

④一人でできる動作課題

臨床動作法は、本来は援助者と一緒に行うものですが、課題の一部は一人でも体験できます。ここでは、日常に取り入れやすい3つの課題を紹介します。痛みのない範囲で、ゆっくり行いましょう。

肩上げ課題

緊張と弛緩の違いを感じ取り、ふだんの生活で「今、力が入っているな」と気づけるようになるための課題です。椅子に楽に座って行います。

①片方の肩を、5秒ほどかけてゆっくり上げる(首や腕には力を入れず、肩だけを上げるつもりで)

②「少しきついな」と感じたところで止め、そのまま数秒待つ

③ゆっくりと肩を下ろし、力を抜く

④肩のまわりに広がる、じわーっとした温かさや重さを味わう

⑤反対の肩も同じように行う。左右それぞれ2〜3回が目安

ポイントは、「きつい」と感じる手前の境目を大切にし、無理に上げようとしないことです。また、「自分でゆるめられた」という感覚をじっくり味わいましょう。力の入れ加減が分からないうちは、回数を増やしすぎると筋肉痛になることがあるので注意してください。

腰弛め課題

背中や腰の緊張に気づき、落ち着きを取り戻すための課題です。椅子に座るか、床にあぐらで座って行います。

①椅子の場合は、足を腰幅に開き、膝をつま先と同じ方向に向ける

②股関節から折るようにして、腰、背中、肩、頭の順に力を抜きながら、ゆっくり前にかがむ

③かがんだ姿勢で、背中や腰がゆるんでいく感じを味わう

④右足の上、左足の上へと、上体の重みを順に乗せて同じように味わう

⑤最後に真ん中に戻り、ゆっくり体を起こす

椅子で行う場合は、頭が下がった姿勢を長く続けると、起き上がったときにふらつくことがあります。30秒ほどを目安に、ゆっくり体を起こしましょう。

軸つくり(タテ系動作)

腰弛めでリラックスした後に続けて行う、姿勢を整える課題です。「タテ系動作」とも呼ばれます。

①前にかがんだ姿勢から、頭をゆっくり起こす

②頭と背骨が、一本のまっすぐな棒になっているイメージを持つ

③胸を軽く開きながら、その棒がまっすぐ立ち上がっていくように、腰の上に上体を乗せていく

④体の中心に、まっすぐな「軸」が通っている感じを確かめる

体をまっすぐに立てる感覚がつかめると、姿勢が安定し、気持ちもしゃんとしてくることがあります。臨床動作法では、この体の芯の感覚を「自体軸」と呼び、自分の存在や活動を支える土台として大切にしています。

⑤二人で行う肩押し課題

肩押し課題は、二人一組で行う課題です。援助を受ける人は、相手に体を預ける体験を通して、緊張がほどける感覚と、人に支えてもらう安心感を味わいます。

肩押し課題の手順

一人は椅子か床に楽な姿勢で座り、もう一人はその後ろに立ちます。始める前に、触れてもよいかを必ず確認しましょう。

①座っている人の両肩に、手のひらをやさしく乗せる

②手が沈み込んでいくようなイメージで、8〜12秒ほどかけて、じっくり圧を加える

③10秒ほどかけて、ゆっくり圧を抜く

④座っている人は、ぽかぽか、じわーっとした余韻を味わう

⑤数回くり返したら、役割を交代する

援助するときのコツ

相手の呼吸に合わせて、息を吐くタイミングで圧を加え、吸うタイミングで緩めると、お互いに心地よく感じられます。終わった後は、感想を伝え合いましょう。「気持ちよかった」「温かくなった」という声が多く聞かれます。

ただし、肩押しは、かつては多くの援助者が行っていましたが、現在では行う人が少なくなっている課題です。強く押しすぎない、相手が「やめたい」と言ったらすぐにやめる、という点を守って、無理のない範囲で体験してください。

⑥取り組むときの注意

臨床動作法の課題は、体への負担が小さいものが中心ですが、取り組むときは次の点に気をつけましょう。

痛みがあるときは中止

肩や腰、首にけがや痛みがある方、整形外科などで治療中の方は、課題を行う前に医師に相談してください。課題の途中で痛みやしびれ、めまいなどを感じたときは、すぐに中止しましょう。

専門家のもとで行う場合

臨床動作法を心の不調の改善に役立てたい場合は、臨床動作法を学んだ公認心理師や臨床心理士などの専門家のもとで行うのが基本です。日本臨床動作学会では、臨床動作法の専門家の資格認定も行っています。体に触れる援助を受けることに不安がある場合は、遠慮なくその気持ちを伝えてください。

⑦まとめ

臨床動作法は、動作の課題を通して、からだの緊張に気づき、自分でゆるめる体験を重ねることで、こころのあり方を見直していく、日本生まれの心理療法です。

今回のポイント

「動作」とは、意図と努力を含む心の働きの流れ

余計な緊張に気づき、自然な力の入れ方を学ぶ

自分で体をゆるめられた体験が、自信や安心感につながる

痛みがあるときは中止し、心の不調には専門家のもとで

仕上げに

緊張を感じた日や、不安を感じているときは、肩上げ課題を試してみてください。体の緊張がゆるむと、心もほぐれてきます。足の裏の感覚などを手がかりに「今ここ」に戻る方法は、グラウンディング技法でも紹介しています。

約20年前に感じた臨床動作法の温かい感覚は、今でも体に残っています。なんとも不思議で温かい療法だと、今でも感じています。ぜひ、ご自身の体と心の様子をじっくり感じてみてくださいね。

しっかり身につけたい方へ

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監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] 成瀬 悟策 (2002). 臨床動作法の誕生と展開(特集 創造性と日本の社会) 学術の動向, 7(2), 19-23.
 
[2] 日本臨床動作学会(編)(2000). 臨床動作法の基礎と展開 コレール社
 
[3] 上倉 安代・清水 良三 (2013). 統合失調症者の適応的社会生活活動性および退院促進にかかわる動作法の効果 臨床動作学研究, 18, 27-38.
 
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